1. 糖尿病黄斑症(とうにょうびょうおうはんしょう)とは |
糖尿病黄斑症は糖尿病網膜症の中の特殊な病態で、網膜の中心である黄斑(おうはん)が出血や浮腫などにより障害される状態のことです。人は黄斑でものを見ていますので、黄斑が障害されると視力が著しく低下してしまいます。
糖尿病黄斑症は糖尿病網膜症の重大な合併症であり、一番軽症である単純網膜症では10〜20%、重症の増殖網膜症では50〜70%でみられます。ただ、早期から糖尿病黄斑症を発症するかたと、重症になっても糖尿病黄斑症がみられないかたとの違いについてはまだよく分かっていません。 |
2. 糖尿病黄斑症の治療について |
糖尿病網膜症と同じく、糖尿病黄斑症の治療においても内科における血糖のコントロールが一番重要です。血糖のコントロールがよくなければどんな眼科的治療を行なってもあまり効果は期待できません。
眼科的治療としては、レーザー凝固、ステロイド注射、硝子体(しょうしたい)手術などがあります。
レーザー凝固では浮腫の原因となっている毛細血管瘤(けっかんりゅう)を直接凝固しますが、黄斑のまん中である中心窩(ちゅうしんか)付近にはレーザー凝固ができません。また、毛細血管瘤がはっきりしないびまん性黄斑浮腫には効果が限定的です。逆にレーザー凝固を施行することにより糖尿病黄斑症が悪化してしまうことがあります。
ステロイド注射には、ステロイド懸濁液を白目の皮(結膜)の下(テノン)に注射する方法と、直接眼球のなか(硝子体)に注射する方法があります。硝子体に注射する方が効果がありますが、眼内出血や感染症などのリスクが生じます。また、可能性は高くありませんが、ステロイドにより眼圧が上昇して緑内障となってしまうことがあります。
レーザー凝固やステロイド注射でよくならない場合には硝子体手術を検討します。眼球のなかにゲル状に存在する硝子体を切除することにより、黄斑浮腫の要因である硝子体の牽引を解除し、毛細血管の透過性を亢進させる物質を除去することができます。ただ硝子体手術にはリスクもあり、その効果も患者さん病態により異なりますので、網膜硝子体を専門とする眼科医の診察と治療が必要です。 |
3. 実際のある患者さんの場合 |
65歳のAさんは内科にかかっておらず、糖尿病のコントロールの指標であるHbA1cの値は10.5%と大変高い値でした。両眼とも黄斑部に毛細血管瘤と網膜浮腫があり(図1,2)、視力は0.5程度でした。内科で治療を始めていただき、両眼にレーザー凝固を行いました。しばらくの間、糖尿病黄斑症は一進一退でしたが、血糖値のコントロールが徐々によくなるにつれて網膜の状態も良くなり、現在はわずかな出血と白斑が残っているだけで、網膜浮腫はほとんどありません(図3,4)。視力も0.9〜1.0へ改善しました。 |
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