甲状腺眼症は自己免疫反応によって眼窩内の筋肉や脂肪組織が炎症・腫脹することで発症します。
代表的な症状は眼球突出(目が飛び出して見える)、眼瞼後退(まぶたが引き上げられる)、複視(ものが二重に見える)、眼の充血や異物感、羞明、乾燥感などです。重症化すると視神経が圧迫され、視力低下や失明の危険もあります。
甲状腺眼症はバセドウ病患者の約2〜3割に見られますが、甲状腺機能低下症(橋本病)や甲状腺機能正常であっても甲状腺眼症は起こることがあります。発症年齢は30〜50歳代に多く、女性に多い傾向がありますが、重症例は男性に比較的多いとされています。
図:甲状腺眼症イメージ
(ChatGPTにより作成)
特に喫煙者や甲状腺機能が不安定な人ではリスクが高まります。
原因
主な原因はバセドウ病に伴う自己免疫反応です。抗TSH受容体抗体などの自己抗体が眼窩内の線維芽細胞や脂肪組織に作用し、炎症や線維化を引き起こします。喫煙は強いリスク因子であり、発症や重症化を助長します。また、甲状腺機能の急激な変化や放射性ヨウ素治療後に悪化することもあります。
検査方法
一般的な眼科検査で、視力、眼圧、眼球突出、斜視、眼瞼後退などを調べます。
甲状腺眼症が疑われる場合は内分泌内科へ受診していただき甲状腺機能について精密検査を行います。
CTやMRIで眼窩内の外眼筋(眼球を動かす筋肉)や脂肪組織が腫れていないか確認します。
治療法
治療の基本は炎症のコントロールと眼の機能・外見の維持です。活動期に適切な治療を受けることが重要です。
・禁煙・甲状腺機能の安定化
最も大切な治療です。
・薬物治療
活動期には副腎皮質ステロイド(点滴・内服)が第一選択。免疫抑制薬(シクロスポリン、ミコフェノール酸など)が使われることもあります。
・放射線治療
眼窩照射で炎症や浮腫を抑えることがあります。
・手術
慢性期や視神経障害例では眼窩減圧術、斜視手術、眼瞼手術などが行われます。
・分子標的薬
近年、抗IGF-1R抗体であるテプロツムマブ(テッペーザ)が承認されていますが、治療費用が高額となる懸念があります。
予後
多くの症例では軽症〜中等症で自然に安定しますが、眼球突出や機能的後遺症が残る場合もあります。早期に禁煙し、甲状腺機能をコントロールすれば予後は改善します。重症で視神経障害を伴う場合は失明の危険があり、迅速な治療が必要です。分子標的薬の登場により、従来治療で効果が不十分だった症例の予後改善が期待されています。
参考サイト
日本眼科学会:甲状腺眼症
https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=30
甲状腺疾患にかかわる目の症状を知るサイト『甲状腺眼症.jp』
https://www.kojosen-gansho.jp/about_ted/ted
2025年10月1日掲載